形成外科

まず顔面神経麻痺には大きく分けて2つの原因があります。

  1. ウィルスが原因のもの
    単純ヘルペスウィルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウィルス(VZV)によるもので突発性に発症します。発症すぐの急性期の治療は通常抗ウィルス薬やステロイドの投与となります。軽傷のものは麻痺の残存なく回復しますが,症状が高度なものは急性期の薬による治療の後,適切な表情筋のリハビリが非常に重要となりますが,それでも後述するような後遺症が残ることがあります。
  2. 腫瘍切除後,外傷後など
    悪性腫瘍の切除などで顔面神経を切除せざるを得ない場合や,顔面(特に側頭骨骨折など)の外傷で顔面神経が直接損傷された場合などに生じます。これらは自然に回復することはなく,「完全麻痺」という状態になり,治療には手術が必要となります。

上記2つの原因によって生じる顔面神経麻痺ですが,形成外科での治療が必要となるのは後遺症として残ってしまう「完全麻痺」と「不全麻痺(病的共同運動)」に対してとなります。これらの状態を陳旧性顔面神経麻痺と呼びます。

どんな症状?

「完全麻痺」では麻痺側の表情筋が動かなくなってしまうため,瞼が完全に閉じられなくなり兎眼という眼の炎症を生じることがあります。また,眉毛が下がったり口角部が動かないことによる顔面の左右非対称など整容面にも大きな変化があります。

 「不全麻痺(病的共同運動)」では麻痺側の表情筋のコントロールがうまくいかない状態です。例えば"食事をするときなどに口を動かすと瞼も一緒に動いてしまったりする"や"まばたきに合わせて頬がピクピク動いてしまう"という症状があります。首のつっぱりが出ることなどもあり,その病態はさまざまです。

どんな治療があるの?

前述のように急性期については薬物治療と適切なリハビリとなりますが,これは一般的に耳鼻科で治療されることが多いです。形成外科は症状が残ってしまった陳旧性顔面神経麻痺に対して治療を行います。

「完全麻痺」には安静時の対称性を取り戻すための静的再建術や,「笑い」の表情や閉瞼の機能を取り戻すため筋移植や筋移行といった動的再建術などがあります。

「不全麻痺(病的共同運動)」には過剰に動いてしまう表情筋の減量や,神経ネットワークの再構築を目指した神経移植などを行います。過剰な表情筋の運動で痙攣のような症状を生じる場合にはボトックス注射による非手術的な治療という選択肢がありますが,効果は限定的であり繰り返しの注射が必要となります。いずれの場合も治療経過中には表情筋のリハビリも平行して行います。

当院では,上記に示す手術治療や発症直後からの表情筋のリハビリ指導などを行っております。なお,いずれの治療もリハビリを含め治療期間は長くかかります。様々な症状の程度と患者さんの希望に応じた治療法の選択がありますのでこのような陳旧性顔面神経麻痺の症状にお悩みの方はご相談ください。