NST便り2026.3月号 「日本栄養治療学会(JSPEN)に参加しました。」
2026年03月16日

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2026年3月

2026213,14日にパシフィコ横浜で開催された日本栄養治療学会(以下:JSPEN)学術集会に参加しましたので、

他院での取り組みや学び得た内容について報告いたします。

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私はNST委員会に所属して2年目になりますが、加入前から患者さんの"食"に関して"窮屈さ"を感じてきました。

なぜ栄養を必要としている人々の方が"食"の自由度が低く制限されたものなのか、もっと大切にされるべき時間では

ないのかと疑問に思ってきました。

もちろん病状による制限は存在し、数百人が入院している環境で提供される時間や内容が一律であることは

仕方のないことですが、それ以外にもう少し「自由度」や「喜び」があってもよいのではと

日々感じてきました。

そこで貴重な機会を頂き、他院の食事や栄養事情について学ぶべく参加したJSPENの今年のテーマは『innovation』。

様々な職種から斬新な発表、提案がありました。

TEE(総エネルギー消費量)の係数に関する改正案、ILD(間質性肺炎)治療薬の副作用に関連した栄養摂取の

すすめなど医学的な視点での発表も刺激的で、報告すべき内容は多々ありますが、今回NST便りでは

POTTプログラム」という"食事そのもの"に着目した取り組みについて簡単に

報告させて頂きます。

POTTプログラム」とは、

PO:ポジショニング、T:食べる喜びを、T:伝える

というものです。

具体的な取り組みとしては、

1)食事開始を個人判断にしない

2)食事の再設計

3)食事介助を個人技からチームの基準へ

といったものです。これらは以下の問題点をもとに発案されました。

(1) 誤嚥徴候を機に絶食の判断が下るのに対し、経口摂取再開のルールは明確化されておらず、

   タイミングを逃している可能性はないか。

(2) 多量のゼリー粥よりも少量で高エネルギーを獲得できる内容へ転換できないか。

   ※発表者の病院ではリカバリー食という7分で完食できるよう作られたメニューがありました。

(3) タイムプレッシャーの中での全量摂取は忙しさで自己流にならざるを得ない現状がある。

   摂取量のムラや咽せを誘発し食事中断のきっかけになり得る。

これらの解決策を明確化し基準を作ることで、適切なタイミングで経口摂取を再開し、その人に合った内容で楽しみを伴った食事の時間として提供する。そのために正しいポジショニング・介助方法を習得、標準化していくといった取り組みです。

また同院では「ミールラウンド」を行っており、

〇摂取量  〇表情  〇なぜ止まるのか  〇残すのか

など机上の献立のみでなく患者様自身、介助者の様子までも確認する機会を設けているとのことでした。

他にも手で持って食べることのできるハンズフード、匂いで食欲をかきたてる工夫、手作りONSなど、食事の時間を

前向きに捉えられるような工夫がいくつも聞かれました。

これらの取り組みをすぐに開始するのは難しいですが、食事介助を始める前にポジショニングを再確認してみたり、

摂取が止まるタイミングや疲労が現れる時間を観察してみたり、一口量を一定に提供できているか、自身が患者さんの

立場になった時に「美味しい」と感じられる状況にあるのかを考えることは今日からでもできることだと感じます。

私も昼食前に担当の患者様のところを周って姿勢を直したり観察したりすることを始めてみました。

今後、「病院食は美味しくない物、薬だと思って食べる物」という無意識の諦めが、「入院前と変わらない

楽しみな時間」に変わるような取り組みを、業務の負担とならない方法で習慣化できるよう

検討していきたいと思います。

そして驚いたことに台湾の病院では地下にファストフードのフードコートがあり、中国では家族が食事を作れるように

キッチンもあるそうです。今回のテーマ『innovation』から固定概念にとらわれないことの大切さも学びました。

ひとりひとりが新たな視点で患者様の"食"について考える機会が増えると可能性も広がると感じます。

この貴重な機会が患者様に生きるよう委員会で取り組んで参ります。

(今回はリハビリテーション科 向井 萌乃佳が担当しました)

NST(栄養サポートチーム)

投稿者 リハビリテーション科 向井 萌乃佳
NST便り2025.11月号 「当院もGLIM基準を導入いたしました」
2025年11月06日

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2025年11月

 GLIM基準とは、Global Leadership Initiative on Malnutritionの略で、2018年にヨーロッパ、米国、アジア、南米の

栄養に関する学会により発表された低栄養の診断基準です。GLIM基準が発表されるまでは、

低栄養に関する国際的な基準はありませんでした。

令和6年の診療報酬改定で、NSTの加算を算定する場合やリハビリテーション・栄養・口腔連携体制の

加算を算定する場合で、GLIM基準を用いた評価を行っていることが求められました。

このことから日本全国の病院で、主に入院した患者様の栄養状態を評価する方法として、

このGLIM基準が使用されるようになってきています。

当院ではこれまで、低栄養の評価を行う方法として、SGA(主観的包括的栄養評価法)という方法を用いてきましたが、

上記の必要性から今年度、GLIM基準の導入を計画し、本年8月から運用を開始しています。

 GLIM基準は、スクリーニング、診断、重症度判定のステップに分かれています。スクリーニングとは

多くの患者さんの中から、栄養不良のありそうな方を大きく拾い上げることです。

GLIM基準ではスクリーニングはすでにあるツールを用いることになっていて当院ではMUST

(Malnutrition Universal Screening Tool)を使用することにしました。

MUSTは入院時の肥満度(BMI)、過去36ヶ月の体重減少の有無、入院後、絶食による治療が必要な疾患かどうか、の

項目でチェックを行います。

ここで低栄養の可能性あり、と判断された場合は、GLIM基準の診断へ進みます。ここでは「表現型基準」という、

入院までの間の意図しない体重減少の有無、低BMI、筋肉量の減少の有無と、「病因基準」という、入院までの間に

食事が摂れていたかどうか、食事の摂れないような疾患の有無、を評価します。

「表現型基準」と「病因基準」の両方の因子を持つ患者さんは「低栄養」と診断され、その後の重症度判定へ進み、

原疾患の治療やNST活動などを通じて低栄養の改善への方策が取られます。

 当院NSTでも、今回新しくGLIM基準を導入するに当たり、9月と10月の院内勉強会ではGLIM基準を

テーマに取り上げました。

当院NSTでは過去10年以上にわたって、SGAを用いて評価を行って来ましたが、新しい基準を導入し、

手探りながら活動を継続しています。

 当院に入院された患者様やご家族様には、このGLIM基準による評価のために、「入院までの間に体重が

どれくらい減ったのか」「入院前の体重は何キロだったのか」「入院前には食事は食べられて

いたのかどうか」といったことをお聞きすると思いますが、分かる範囲でよろしいので、

聞き取りにご協力いただけますと幸いです。

GLIM基準による低栄養診断のプロセス

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(今回はIBDセンター 折居 史佳が担当しました)

NST(栄養サポートチーム)

投稿者 IBDセンター 折居 史佳
NST便り2025.9月号 試食会の報告
2025年09月12日

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2025年9

≪試食会の報告≫

 724日に、栄養管理委員会・NST委員会合同勉強会『病院食の形態(一般食・特別食)と機能付加食品』

を開催しました。

2年続けて実際に試食してもらう形式で行う事が出来ました。

 毎年新入職員を中心に参加して頂き、「配属病棟ではあまり見ることのない食事を食べることが出来た」

などの声も頂けました。

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 また付加食品・経管栄養の試食では「意外に美味しいものもある」、「経管栄養は口から摂取するには

独特な味がする」と普段、患者様に配膳している食品を実際に食べる事で様々な感想を頂けました。

 栄養状態の改善は腸管を早期に利用できることが重要になってきます。その際、病院食、付加食品などを

実際に食べることで患者様との情報共有にも繋がると思います。

 来年度も引き続き開催していきたいと思っておりますので、新入職員以外の皆様も

是非参加してください。

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(今回は栄養管理室 北村 雄治が担当しました)

NST(栄養サポートチーム)

投稿者 栄養管理室 北村 雄治
NST便り2025.4月号
2025年04月10日

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2025年4月

〈睡眠薬と食事量の関係〉

3月のNST勉強会は睡眠薬が食事量に与える影響をお話させていただきました。

NSTで回診していますと、眠たくてぼーっとした状態の患者さんが食事を

しっかり食べられていないケースが散見されます。

もし、病院で服用している薬が原因で食事ができなくなってしまうようであれば、

解決したいと思い、今回は睡眠薬に的をしぼってさせていただいた次第です。

眠たくてボーッとした状態で食事量が上がらない原因を「認知機能の低下」と

「嚥下機能の低下」に大きく分けてお話をさせていただきます。

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・食べ物の認知は大脳の「大脳辺縁系」でおこなわれます。ここでは記憶の仕分け、記憶の符号化、

検索などの働きがあり、食べ物を目で見たり、匂いを嗅いだりすることによって「空腹感」に基づく

「食欲」が生ずると考えられています。一部の睡眠薬はこの部分にも作用するため、

「食欲」が落ちる可能性があると考えられます。

・次に食べ物が口に入った時のことを考えてみます。食べ物が口にはいると「咽喉頭粘膜」の感覚器官が

「食べ物」が入ったことを認識します。この情報が延髄にある「嚥下中枢」に届き、「食べ物」が

口の中にはいったことを大脳に伝え、味、温度、硬さなど情報が認識されます

。同時にこの「嚥下中枢」から嚥下に必要な筋肉を動かす指令が出されます。

上記と同様、一部の睡眠薬は「嚥下中枢」にも作用するため、食べ物の呑み込みが

うまくいかなくなる可能性があると考えられます。

現在、使用されている睡眠薬は「オレキシン受容体拮抗薬」、「メラトニン受容体作動薬」、

「GABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)」の大きく三つに分けることができます。

オレキシンは脳内の視床下部で産生され、神経細胞のオレキシン受容体に結合し覚醒を促します。

結合を邪魔するのが、「オレキシン受容体拮抗薬」になります。

メラトニンは松果体で産生される、覚醒から睡眠への移行を促す脳内産生物質です。

メラトニン受容体は目で見た情報を脳に届ける神経上(主に視交叉上核)に多く存在します。

メラトニンの代わりをする薬が「メラトニン受容体作動薬」です。

GABAAは興奮した神経細胞を鎮める脳細胞で産生される物質です。脳神経の興奮した神経細胞のGABAA受容体に

結合して興奮を鎮めます。この作用を強めるために開発されたのが、同じ受容体に結合する

「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」になります。

「オレキシン受容体拮抗薬」、「メラトニン受容体作動薬」は大脳辺縁系や嚥下中枢への 影響は弱いのですが、

GABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)」が作用する「GABAA受容体はこの部分に

比較的多く存在するため、薬の効果も出やすいですが、副作用の起こる可能性も出てきます。

「オレキシン」も「メラトニン」も「GABA」も元々頭の中に存在する伝達物質ですので、

日頃のストレスや睡眠不足などが日々の食欲に影響を与えると思います。

薬を使用する前に生活のリズムを整えることも大切になります。

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(今回は薬剤部 岡部 幸男が担当しました)

NST(栄養サポートチーム)

投稿者 薬剤部 岡部 幸男
≪必要エネルギー量算定に必要な基礎代謝量とは?≫
2024年10月02日

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2024年10

NST活動では患者様ごとに一日に必要なエネルギー量の目安を算出し、

そのエネルギー量が摂取できるようプランを立て、支援を行っています。

この「一日に必要なエネルギー量」は「基礎エネルギー代謝量:basal energy expenditure : BEE」と

「活動係数」と「ストレス係数」により算出されます。

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「一日必要エネルギー量」=「基礎エネルギー代謝量」x「活動係数」x「ストレス係数」となります。

基礎エネルギー代謝量というのは、健康な人が何もしないで横になっているときに生命を維持するために

必要なエネルギー量のことです。活動係数というのは、どれくらい体を動かすかの指数、ストレス係数というのは、

病気やケガがあるためにどれくらい余計にエネルギーを使っているか、という指数です。

活動係数は、寝たきりだと1.0、ベッド上安静だと1.2、一般労働では1.51.7程度、ストレス係数は、

感染症で1.21.5、術後で1.11.2、熱傷で1.22.0と言われています。

今回のNSTたよりでは、この基礎代謝エネルギー量の測定法の歴史について書いてみようと思います。

17世紀、ガリレオ・ガリレイが活躍したのと同時期に、イタリアの医師で科学者のサントリオ・サントリオが

現代の「基礎代謝」に相当する事実を発見しました。彼は20歳代から30年間にわたり、毎日、食前食後、排泄の前後、

睡眠の前後に大きな秤に乗り、体重を測定、また、汗を含む排泄物の量もはかり、記録しました。

その結果、排泄物の量は一日に食べた物の量の半分以下であることに気づき、この差の分は、知らぬ間に汗孔から蒸発したと考えました。

しかも、その量は、部屋の環境や運動の量で異なることも発見しました。この研究は当時の人々を驚かせただけに終わりましたが、19世紀後半に物質代謝が論じられるようになって初めて、脚光を浴びることになりました。

サントリオは体温計と脈拍計の発明者としても知られています。

19世紀後半から20世紀にかけて直接熱量測定法(装置)が開発されました。これは断熱材で完全に密閉され、

室温を冷却水で一定に保つようにした小室をつくり、その中に被検者が入り冷却水が加熱される程度から

被検者の放熱量を知ろうとするものでした。この装置による4日間の測定結果が、摂取した食物エネルギーから、

排泄された尿・便のエネルギーを引いたものと一致したことが報告され、サントリオが「知らぬ間に汗孔から蒸発した」と考えたエネルギーが「基礎代謝」であることが証明されました。

直接熱量計が大型で高度な技術を必要とするため、より簡便なものとして、生体の酸素消費量、二酸化炭素産生量、

尿中窒素量を測定し、呼吸商および非蛋白呼吸商を算出してエネルギー代謝を測定する間接熱量計が、ほどなく開発されました。

現在も基礎エネルギー代謝量(厳密には基礎エネルギー代謝量にストレス係数をかけた安静時エネルギー消費量)を測定する場合は、この、間接熱量計が使用されています。

間接熱量計は高価なため、すべての医療機関に配置されているわけではありません。当院にも間接熱量計はありません。

そのような場合には、ハリス・ベネディクトの式という計算式を用いて、基礎エネルギー代謝量を推定しています。

参考文献:

基礎代謝測定法の原理 中野昭一 検査と技術138号 p706-710

科学的診断の先駆者サントリオ 小川鼎三 medicina81号 p130

検査を築いた人々サントリオ・サントリオ 酒井シヅ 検査と技術1011p996

(今回はIBDセンター 折居史佳が担当いたしました)

NST(栄養サポートチーム)

投稿者IBDセンター 折居史佳