
2026年6月
今回は、5月21日木曜日に継続診療部と臨床研修センターとの共催で「栄養療法における倫理的配慮と
重症患者の栄養療法~栄養療法開始とその内容の諸問題~」と題しまして北海道大学病院 消化器外科学教室Ⅱの
七戸俊明先生にお話しを頂きました。先生のお許しを頂きましたので、その概要を掲載させていただきます。
〇栄養療法における倫理的配慮
ASPEN(米国静脈経腸栄養学会)の声明とESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)のガイドラインからの
栄養療法の倫理的配慮の説明があり、病院で通常行われるAANH(人工的水分・栄養投与)は両学会からも
医療行為と位置づけられているが、医療倫理の四原則(自立・善行・無害・公正)に基づき、患者の意思と治療目標を
尊重した判断のもとに実施され、実施には慎重な倫理的配慮が必要。終末期や認知症など病態ごとの課題に応じて
適用基準やインフォームドコンセントを踏まえた対応をしていく。NST活動に関しては専門職の倫理綱領を遵守し、
科学的根拠に基づいた適切な栄養支援を行う責務がある。
〇重症患者に対する栄養療法
参考図書の『徹底ガイド 栄養療法~研修医からの質問380~』に掲載の「蛋白・アミノ酸を負荷する場合、
尿素窒素(BUN)値はどこまで許容するか」をテーマにして急性腎障害と急性肝不全を例に話が進められました。
まずは蛋白質の必要性から。水分が足りない=脱水になる、ビタミン・ミネラルが足りない=欠乏症になる
ということは十分に認識されているが、蛋白質が足りない=生きて退院できないという認識はなかなか持てない。
核酸、アミノ酸、蛋白質は窒素を含み、動物は必須アミノ酸を作れないことを考えると蛋白質欠乏(窒素欠乏)は
死に至る病だとわかります。

急性腎不全は腎の組織修復を目的に蛋白強化を行うべきで、電解質異常と溢水がなければBUN上昇は許容する。
急性肝不全ではビリルビン上昇と高アンモニア血症があるため蛋白制限を行うことが多いですが、
JSPEN(日本栄養治療学会)での急性肝不全患者に対する栄養療法のガイドラインをまとめると
蛋白制限の指標は肝性脳症であり、高アンモニア血症ではないことが明記されています。
肝不全時にアルブミン合成、エネルギー貯留、アンモニア分解などの働きは骨格筋が代替しますが、
蛋白制限をしてしまうと骨格筋が肝臓の働きを出来なくなります。
栄養療法で原疾患を治療することは困難ですが、不適切な栄養療法は患者の回復を遅らせます。
特定の栄養を制限したり、加えたりしていくのではなく、必要な栄養をまんべんなく、
バランスよく摂ってもらうことが必要です。
早い段階でプレバイオティクスやプロバイオティクスを用いた腸管再生を意識した栄養療法も
必要になってくるのではないかと思います。
〇重症患者に対する栄養療法のまとめ
基本事項としては、目標エネルギー量と蛋白投与量を設定し、最初の一週間は目標の70%を目安に投与することと、
特別な場合を除き、経腸栄養は48時間以内に導入すること。
急性腎障害・急性肝不全に対して蛋白質を抑えて炭水化物や脂質でエネルギーを補おうとすることが多いですが、
車で例えると「ガソリン」で車は直りません。BUN値やアンモニアの正常化を目標とせず、
むやみに蛋白制限は行わないことが大切です。
参考図書:日本栄養治療学会 JSPENテキストブック(改訂第2版)2026/3/23 南江堂
徹底ガイド 栄養療法(救急・集中治療 Vol.35・No.3)研修医からの質問380 2023/10/24
(今回は薬剤部 岡部 幸男が担当しました)
NST(栄養サポートチーム)

2026年4月
〇電解質輸液の基礎
3月に開催しましたNST勉強会の内容を簡単にお伝えしようと思います。
<体液の分布と役割>NSTでは定期的に輸液の勉強会を開催させていただいておりますが、今回はナトリウム
とカリウム、そして水分に的を絞ってお話をさせて頂きます。
ヒトの体液構成は成人の場合、体重の約60%が水分です。さらにこまかく分けると細胞の内側の水分が約40%、
細胞の外側が約20%となります(図1)。ヒトの体のなかには幾種類の電解質が存在しますが、なかでも
ナトリウムとカリウムが大きな役割を果たしています。
どちらも細胞の内側と外側の浸透圧を維持し、筋肉の収縮、神経刺激の伝達、栄養素の吸収・輸送など
さまざまな働きをしています。

図1
<輸液の種類と目的>
輸液には維持輸液、補正輸液、栄養輸液などがあり、目的により使用する輸液が変わってきます。
栄養輸液を除く、主な当院採用輸液は表のようになります。

表1
出血や下痢による急激な体液減少や夏場の脱水症状などに対しても体液と電解質を理解することで
適切な輸液管理ができます。
1.計画的な投与
2.総合評価
3.定期的な見直し
が必要ですが、適切な輸液製剤の選択や投与量の調節も必要になってきますので、NSTでは
これらについてもサポートを行っています。
(今回は薬剤部 岡部 幸男が担当しました)
NST(栄養サポートチーム)

2026年3月
2026年2月13,14日にパシフィコ横浜で開催された日本栄養治療学会(以下:JSPEN)学術集会に参加しましたので、
他院での取り組みや学び得た内容について報告いたします。

私はNST委員会に所属して2年目になりますが、加入前から患者さんの"食"に関して"窮屈さ"を感じてきました。
なぜ栄養を必要としている人々の方が"食"の自由度が低く制限されたものなのか、もっと大切にされるべき時間では
ないのかと疑問に思ってきました。
もちろん病状による制限は存在し、数百人が入院している環境で提供される時間や内容が一律であることは
仕方のないことですが、それ以外にもう少し「自由度」や「喜び」があってもよいのではと
日々感じてきました。
そこで貴重な機会を頂き、他院の食事や栄養事情について学ぶべく参加したJSPENの今年のテーマは『innovation』。
様々な職種から斬新な発表、提案がありました。
TEE(総エネルギー消費量)の係数に関する改正案、ILD(間質性肺炎)治療薬の副作用に関連した栄養摂取の
すすめなど医学的な視点での発表も刺激的で、報告すべき内容は多々ありますが、今回NST便りでは
「POTTプログラム」という"食事そのもの"に着目した取り組みについて簡単に
報告させて頂きます。
「POTTプログラム」とは、
PO:ポジショニング、T:食べる喜びを、T:伝える
というものです。
具体的な取り組みとしては、
1)食事開始を個人判断にしない
2)食事の再設計
3)食事介助を個人技からチームの基準へ
といったものです。これらは以下の問題点をもとに発案されました。
(1) 誤嚥徴候を機に絶食の判断が下るのに対し、経口摂取再開のルールは明確化されておらず、
タイミングを逃している可能性はないか。
(2) 多量のゼリー粥よりも少量で高エネルギーを獲得できる内容へ転換できないか。
※発表者の病院ではリカバリー食という7分で完食できるよう作られたメニューがありました。
(3) タイムプレッシャーの中での全量摂取は忙しさで自己流にならざるを得ない現状がある。
摂取量のムラや咽せを誘発し食事中断のきっかけになり得る。
これらの解決策を明確化し基準を作ることで、適切なタイミングで経口摂取を再開し、その人に合った内容で楽しみを伴った食事の時間として提供する。そのために正しいポジショニング・介助方法を習得、標準化していくといった取り組みです。
また同院では「ミールラウンド」を行っており、
〇摂取量 〇表情 〇なぜ止まるのか 〇残すのか
など机上の献立のみでなく患者様自身、介助者の様子までも確認する機会を設けているとのことでした。
他にも手で持って食べることのできるハンズフード、匂いで食欲をかきたてる工夫、手作りONSなど、食事の時間を
前向きに捉えられるような工夫がいくつも聞かれました。
これらの取り組みをすぐに開始するのは難しいですが、食事介助を始める前にポジショニングを再確認してみたり、
摂取が止まるタイミングや疲労が現れる時間を観察してみたり、一口量を一定に提供できているか、自身が患者さんの
立場になった時に「美味しい」と感じられる状況にあるのかを考えることは今日からでもできることだと感じます。
私も昼食前に担当の患者様のところを周って姿勢を直したり観察したりすることを始めてみました。
今後、「病院食は美味しくない物、薬だと思って食べる物」という無意識の諦めが、「入院前と変わらない
楽しみな時間」に変わるような取り組みを、業務の負担とならない方法で習慣化できるよう
検討していきたいと思います。
そして驚いたことに台湾の病院では地下にファストフードのフードコートがあり、中国では家族が食事を作れるように
キッチンもあるそうです。今回のテーマ『innovation』から固定概念にとらわれないことの大切さも学びました。
ひとりひとりが新たな視点で患者様の"食"について考える機会が増えると可能性も広がると感じます。
この貴重な機会が患者様に生きるよう委員会で取り組んで参ります。
(今回はリハビリテーション科 向井 萌乃佳が担当しました)
NST(栄養サポートチーム)

2025年11月
GLIM基準とは、Global Leadership Initiative on Malnutritionの略で、2018年にヨーロッパ、米国、アジア、南米の
栄養に関する学会により発表された低栄養の診断基準です。GLIM基準が発表されるまでは、
低栄養に関する国際的な基準はありませんでした。
令和6年の診療報酬改定で、NSTの加算を算定する場合やリハビリテーション・栄養・口腔連携体制の
加算を算定する場合で、GLIM基準を用いた評価を行っていることが求められました。
このことから日本全国の病院で、主に入院した患者様の栄養状態を評価する方法として、
このGLIM基準が使用されるようになってきています。
当院ではこれまで、低栄養の評価を行う方法として、SGA(主観的包括的栄養評価法)という方法を用いてきましたが、
上記の必要性から今年度、GLIM基準の導入を計画し、本年8月から運用を開始しています。
GLIM基準は、スクリーニング、診断、重症度判定のステップに分かれています。スクリーニングとは
多くの患者さんの中から、栄養不良のありそうな方を大きく拾い上げることです。
GLIM基準ではスクリーニングはすでにあるツールを用いることになっていて当院ではMUST
(Malnutrition Universal Screening Tool)を使用することにしました。
MUSTは入院時の肥満度(BMI)、過去3〜6ヶ月の体重減少の有無、入院後、絶食による治療が必要な疾患かどうか、の
項目でチェックを行います。
ここで低栄養の可能性あり、と判断された場合は、GLIM基準の診断へ進みます。ここでは「表現型基準」という、
入院までの間の意図しない体重減少の有無、低BMI、筋肉量の減少の有無と、「病因基準」という、入院までの間に
食事が摂れていたかどうか、食事の摂れないような疾患の有無、を評価します。
「表現型基準」と「病因基準」の両方の因子を持つ患者さんは「低栄養」と診断され、その後の重症度判定へ進み、
原疾患の治療やNST活動などを通じて低栄養の改善への方策が取られます。
当院NSTでも、今回新しくGLIM基準を導入するに当たり、9月と10月の院内勉強会ではGLIM基準を
テーマに取り上げました。
当院NSTでは過去10年以上にわたって、SGAを用いて評価を行って来ましたが、新しい基準を導入し、
手探りながら活動を継続しています。
当院に入院された患者様やご家族様には、このGLIM基準による評価のために、「入院までの間に体重が
どれくらい減ったのか」「入院前の体重は何キロだったのか」「入院前には食事は食べられて
いたのかどうか」といったことをお聞きすると思いますが、分かる範囲でよろしいので、
聞き取りにご協力いただけますと幸いです。
GLIM基準による低栄養診断のプロセス

(今回はIBDセンター 折居 史佳が担当しました)
NST(栄養サポートチーム)

2025年9月
≪試食会の報告≫
7月24日に、栄養管理委員会・NST委員会合同勉強会『病院食の形態(一般食・特別食)と機能付加食品』
を開催しました。
2年続けて実際に試食してもらう形式で行う事が出来ました。
毎年新入職員を中心に参加して頂き、「配属病棟ではあまり見ることのない食事を食べることが出来た」
などの声も頂けました。

また付加食品・経管栄養の試食では「意外に美味しいものもある」、「経管栄養は口から摂取するには
独特な味がする」と普段、患者様に配膳している食品を実際に食べる事で様々な感想を頂けました。
栄養状態の改善は腸管を早期に利用できることが重要になってきます。その際、病院食、付加食品などを
実際に食べることで患者様との情報共有にも繋がると思います。
来年度も引き続き開催していきたいと思っておりますので、新入職員以外の皆様も
是非参加してください。

(今回は栄養管理室 北村 雄治が担当しました)
NST(栄養サポートチーム)
