NST便り2019.7月号
2019年07月05日

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みなさん、こんにちは

4月2728日の2日間にわたり、愛知県名古屋市で『人生100年時代の口腔ケア』という大会テーマで、第16回日本口腔ケア学会総会・学術大会が行われました。

この大会は、病院や施設、在宅療養などのあらゆる場面において、様々な病気や治療、日々のケアとその関わりの中での学びや経験を発表し合い、学び合う場でもあります。

今回は、この学会に参加し学んできたことをもとに、みなさんに紹介させていただきたいと思います。

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「口腔ケア」は、言葉の通り、お口のケアのことですが、口の機能は様々で、呼吸をする、食べ物や飲み物を取り入れ咀嚼する、話をするなどたくさんの役割があります。

そして、その機能は、虫歯や歯周病をはじめ、肺炎や誤嚥性肺炎、糖尿病、心筋梗塞などの病気と

深く関連しています。また、食べる、飲み込むといった、私たちが生きていく上で、最も大切な機能にも影響していきます。

高齢社会が進む中、病院や施設、在宅療養をされている方の中にも、自分の力ではできず、ケアのお手伝いを必要とする方が多くいらっしゃいます。この大会のテーマにあるように、『人生100年時代』は間近に迫っています。口腔ケアを通じ、ケアを必要とされる方にどんなケアが提供できるのか、またその方法、実際の患者様の声を聴くなど、多くのことを学ばせていただきました。

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健康なお口をいつまでも維持していけるよう、みなさんにも日々のケアの大切さを知っていただけたらと感じました。

投稿者ICU看護師 髙橋美和子
NST便り2019.4月号
2019年06月13日

『嚥下障害の基礎、食事介助方法』

<嚥下のメカニズム>
Ⅰ.先行期   :食物を形や匂いを認識する。
Ⅱ.口腔準備期 :口に取り込み、噛んでまとめる。
Ⅲ.口腔期   :食物を喉に送り込む。
Ⅳ.咽頭期   :食物が喉を通る
Ⅴ.食道期   :食物が食道を通る。
以上5段階から構成されています。

<嚥下障害と誤嚥>
食べ物を上手に飲み込めない状態のことをいい、主な原因として、形態的な異常(口蓋裂等の先天的な異常、歯の欠損や口腔、喉などの手術等の後天的な異常)や神経・筋系の異常(発達障害や脳血管障害、パーキンソン病などの神経変性疾患等)、他にも加齢に伴う機能低下、認知症等があります。
『誤嚥』というのはこれらの原因により、気管に異物が入ることをいいます。「むせが有る誤嚥」と「むせが無い誤嚥」の2パターンがあり、いずれも誤嚥性肺炎の要因となっています。

<嚥下の評価方法>
嚥下の評価は、①認知機能  ②身体機能  ③口腔器官機能  ④嚥下機能などで行います。
一般的な検査方法として、①反復唾液飲み検査  ②改定水飲み検査  ③食物テストがあり、より専門的な方法として嚥下造影検査と呼ばれるものもあります。

<食事形態について>
食事を摂取しやすくするために、嚥下学会では食事の形態を細かく分類(2013)しています。
当院では患者様の嚥下機能に応じて、主食は米飯~ゼリー粥、副食は常食~ミキサー食にとろみや練り梅などを付加して提供しています。

<水分のとろみについて>
嚥下機能が低下している場合は水分でむせる人が多いため、とろみをつけることで「むせ」を減らすことが出来ます。嚥下機能に応じて適切なとろみの濃度に違いがあり、「薄い」、「中間」、「濃い」という学会分類が存在します。

<食事介助方法>
安全に食事を摂取するための代表的な方法を以下に掲載します。

●食事前
①口腔ケア :誤嚥性肺炎の予防、口腔器官機能の維持、全身状態の維持。
②環境設定 :食事に集中できる環境設定をする。
③姿勢設定 :嚥下機能が低下している場合、ベッドの角度を30、45、60度と調整することで誤嚥のリスクを下げることが出来ます。

●食事中
①何を食べているのか知らせる :食物をしっかり認識させ、体に食べる準備をさせる。
②一口量を調整する      :多すぎると誤嚥のリスクが高まる。
③食べるペースを整える    :食事時間は早くても遅すぎても誤嚥リスクが高まる。 1食につき30分が目安。
④飲み込む前に話かけない

●食後
①内服  :錠剤は口の中に残りやすい。
       薬が飲みづらい場合は薬を粉砕することや、とろみ水やゼリーを使用して飲むとよい。
②口腔ケア:食物が口の中に残留してしまっていることがある。
      そのまま放置すると誤嚥につながるため、食後にしっかり取り除く。
③胃食道逆流の防止:食後すぐに横になってしまうと胃から食物が上がってきやすい。
          食後1時間以上は座っていた方が良い。

<口腔、咽頭残留への対応>
食事中に喉がゴロゴロなることがありますが、これは食物を完全に飲み込むことが出来ておらず、喉に残留している状態です。咳払いや、追加で唾を飲み込むなど喉をすっきりさせてから、食事を再開する必要があります。

<食事中止のタイミング>
①たくさんむせる。
②飲み込む速度が遅くなる。
③SpO2が一気に3%以上低下し、呼吸状態が悪化する。
これだけではないが、大事なことは危ないと感じたら無理に食べさせないことです。

食事は人生の楽しみの1つですが、誤嚥や窒息などの危険を伴うものです。
これを機会に嚥下について関心を持って頂ければ幸いです。食事で気づいたことがあれば言語聴覚士までご相談下さい。

投稿者言語聴覚士 稲井宏則
NST便り2019.2月号
2019年06月12日

【 NSTの流れ その2〜栄養の組み立て〜 】
2018年10月のNST便りで、NST活動における「栄養評価」について書きました。今回は、その続きとして「栄養の組み立て」についてお話ししようと思います。
「栄養評価」で入院された患者様の栄養状態がよいのか悪いのかが分かったら、次には栄養状態を改善するように「栄養の組み立て」を行います。

【 1日の必要栄養量の算定 】
健康な日本人が1日に摂るべき栄養量は、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で発表しています。

このなかで、健康人における1日に必要なエネルギーの量(総エネルギー消費量)は、基礎代謝量(覚醒状態で必要な最小限のエネルギー)×身体活動レベル(活動係数:体を動かす激しさの程度)とされています。例えば、座り仕事の場合の身体活動レベルは1.75程度、立ち仕事の場合は2.0です。
しかし、入院中の患者様の場合はこれに加えて、「病気であることで消耗するエネルギー量」を考慮しなければなりません。
すなわち、1日に必要なエネルギーの量(総エネルギー消費量)は、基礎代謝量×身体活動レベル×ストレス係数(患者様がかかっている病気がどの程度エネルギーを消耗するものなのかを示す指数)で決定されます。たとえば、がんの患者様のストレス係数は1.1〜1.3、感染症の患者様だと1.2〜1.5といわれています。
このように、1日に必要なエネルギー量を計算するのですが、基礎代謝量を実際に計測するには大がかりな装置が必要となり、病院内でそれを測定することができないので、NST活動では年齢、性別、身長、体重などから必要エネルギー量を推定することが行われています。代表的な推定式は、1919年に発表されたHarris-Benedictの式などです。

【 必要エネルギー量の各栄養素への割り振り 】
1日に必要なエネルギー量(総エネルギー消費量)が決定したら、次にそれを各栄養素に割り振り、食事や栄養剤、点滴の内容を決めていきます。
各栄養素の割り振りは一般に以下の順番で行います。

1) たんぱく質:たんぱく質は筋肉や内臓など体の組織を構成する物質で、人体にはなくてはならないものです。健康な人の場合の1日に必要なたんぱく質の量は体重1kgあたり0.8〜1.0gといわれていますが、身体的ストレス(ストレス係数)が高いほど、より多くのたんぱく質が必要となると言われています。従って、患者様のかかっている病気にあわせてたんぱく質の量を決めていきます。
2) 脂質:脂質は健康人では摂りすぎると冠動脈疾患(心筋梗塞など)の危険が増しますが、脂質自体は、各栄養のなかで一番のエネルギー源であり、細胞膜の構成成分であるという重要な役割があります。脂質の目標摂取量は総エネルギー消費量の25%前後といわれています。
3) 炭水化物:炭水化物は最も重要なエネルギー源といわれ、とくに、脳、神経、赤血球、腎尿細管、精巣などはぶどう糖しかエネルギー源として使用できません。炭水化物はこれらの組織へのエネルギー供給源となります。炭水化物(糖質)の摂取量は総エネルギー消費量のおよそ50〜65%とされています。

また栄養素とは異なりますが、1日に摂取する水分量も決めていきます。
4) 水分量:およそ、現在の体重(kg)×25〜30mlといわれています。心臓病、腎臓病のある患者様はこれより少なくなる場合があります。

当院NSTでは、このように決定した栄養量を患者様が満たしていけるよう活動を行って参ります。

参考資料:認定NSTガイドブック2017 南江堂
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)

投稿者IBDセンター医師 折居 史佳
NST便り2019.1月号
2019年06月11日

〇 便秘と下痢と腸内フローラ
日常生活の中で、よく経験する便秘や下痢。今回は薬屋さんの広告でよく目にする「腸内フローラ」のことも交えてお話したいと思います。
<便秘>
便秘の定義に明確なものはありませんが、急性のものと慢性のものがあります。大腸がんなどの何らかの疾患に伴う腸管狭窄によるものや、薬の副作用によるもの、甲状腺機能低下症や糖尿病によるものなどがありますが、一般によく経験するのが機能性の便秘といわれるものです。この機能性の便秘は食生活や運動、または排便習慣をつけるなど、日常生活で対応することができます。
<下痢>
こちらも慢性と急性のものがありますが、多く経験するのは急性の下痢で、下剤の飲み過ぎ、細菌が出す毒素によるもの、感染症、心因性・アルコールなどが原因になります。慢性の下痢では過敏性腸症候群などが挙げられますが、がんなどの器質的疾患も原因となることがあります。細菌などによる下痢は生体防御反応としての下痢なので、腸管内の毒素を自浄するためのものになり
ます。

<腸内フローラ>
人の消化管(胃から大腸まで)には体の細胞の数を超える細菌がいて、それらの細菌と私たちは共生しています。特に腸の中の細菌の集まりを「腸内フローラ」と呼んでいます。消化を助けてもらったり、免疫機能を獲得したり、自律神経や精神活動に影響を与えたり(脳-腸相関)とその働きは様々です。
まだわからないことも多いですが、サプリメントで販売されている「プロバイオティクス(腸内フローラのバランスを改善することを目的とした生きた微生物)」や「プレバイティクス(特定の腸内細菌の腸内活動を促進する物質)」は腸内フローラの機能を修復し、健康の維持増進・回復の補助的役割を担うものとされています。「プロバイオティクス」に代表されるものは発酵乳、乳酸菌飲料。「プレバイオティクス」に代表されるものは難消化性オリゴ糖があります。この2つを人工的に組み合わせたものが「シンバイオティクス」として販売されています。
腸炎の治療には効果がないとする文献もありますので、今後の研究の成果を待ちたいところですが、便秘や下痢の予防も含めて、健康の維持増進に有用ではないかと思います。

投稿者薬局 岡部 幸男 NST(栄養サポートチーム)
NST便り2018.10月号
2019年06月10日

【NST活動とは〜当院での活動】
NSTはNutrition Support Teamの略で、病院内で患者さんの栄養を全病院的にサポートするための組織です。構成メンバーは病院によって違いますが、医師、歯科医師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、言語聴覚士、理学療法士、看護師、事務職員、などからなります。
具体的な活動内容は、血液検査結果などから低栄養と思われる入院患者さんを抽出し(スクリーニング)、食事がとれない患者さんがどのようにしたら栄養がとれるようになるのか、食事のとれない原因を考察し、解決方法を探り、より栄養のとれる方法を主治医に提案する、というものです。
当院では、週1回の回診、月1回のNST通信の発行、3か月に1回程度の勉強会の開催、の活動をしています。

【NSTの流れ】
〇 入院
   ↓
〇 血清アルブミン値(2.5 mg/dl以下)による栄養不良患者の抽出
   ↓
〇 主治医によるNST依頼
   ↓
〇 病棟でSGAによる栄養評価(シートの作成)
   ↓
〇 ODAによる栄養評価・栄養必要量の算定
   ↓
〇 NST回診・カンファレンス
   ↓
〇 主治医への提言(ラウンドレポート)
   ↓
〇 必要量摂取のめどが立つまでのNSTによるフォローアップ

まず、患者さんが入院をしたら入院時の血液検査結果(アルブミン値)から栄養不良の患者さんを抽出します。入院中に栄養状態が悪くなってきた患者さんも同様です。病棟のリンクナースは主治医に相談し、患者さんがNSTの対象になるかどうかを判断し、対象であれば主治医にNSTへの申し込みをしてもらいます。同時に、病棟の看護師により「SGA(後述)」で栄養評価を行います。NSTへの申し込みがなされた時点で、NSTは、患者様の情報の収集(病歴、病状、内服薬剤、点滴の内容など)を行い、「ODA(後述)」による栄養状態の把握、必要栄養量・水分量の算定を行います。当院では必要栄養量の算定はHarris-Benedictの式で必要栄養量の算定を行っています。
週1回、木曜日の回診日にNSTメンバーでNST回診を行い、患者さんの全身状態を拝見、患者さんともお話しして、食事が食べられない原因なども出来るだけ聞き取りを行います。回診後、収集した情報と回診結果を総合し、NSTとして患者さんの栄養摂取について改善出来る点があれば提言を行います。また、必要栄養量が摂取できるような見込みがつくまでは週1回の回診でフォローアップを行います。

【低栄養の評価法】
NST活動では、低栄養の評価法を大きくつぎの2つに分類します。
1) SGA (Subjective global assessment):主観的包括的栄養評価法
2) ODA (Objective data assessment):客観的データ栄養評価法

1.SGA
1982年にカナダのBakerらが提唱した栄養アセスメント法で、特定の測定器具を使わないのが特徴です。
問診として、体重減少量、食事の摂取状況、消化器症状の有無などと、視診・触診により、皮下脂肪量、筋肉量、浮腫の有無などをチェックし、あくまで評価者の「主観」に基づいて栄養状態を評価するというものです。
この評価法の長所は、費用と時間がかからないこと、簡便な割には、血液検査データなどの客観的評価法とよく相関すること、があげられます。

2.ODA
身体測定、血液検査結果などの客観的指標から栄養を評価する方法です。身体測定では、体重のほか、上腕三頭筋皮下脂肪厚、上腕周囲径といったNSTに独特な測定を行います。上腕三頭筋皮下脂肪厚は体脂肪の消耗の程度、上腕周囲径から計算した上腕筋周囲径は筋蛋白消耗の程度をみるものです。
血液検査で栄養状態を評価する項目としては、白血球数(総リンパ球数)、ヘモグロビン値、血清アルブミン値、総コレステロール値のほか、Rapid turnover proteinなどがあげられます。Rapid turnover proteinは半減期の短い蛋白質であり短期の栄養評価に用いられます。当院ではトランスフェリン、プレアルブミン(トランスサイレチン)が検査可能です。

当院NSTでは以上の活動を通じて今後も入院患者さんの栄養状態の改善に努めて参ります。

投稿者IBDセンター医師 折居史佳
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