NST便り2023.9月号
2023年09月14日

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7月13日にNST勉強会「当院の入院食の指標・付加食品・経腸栄養剤について」をカントコトロにて実施致しました。新型コロナウイルス感染症が5類になりましたが、本来の試食会はまだ感染対策からリスクも大きく、座学とさせていただきました。

当院の患者食の食種、形態、付加食品、経腸栄養剤を以下にまとめました。

〇食種・・・常食、軟菜、5分食などの一般食、糖尿病食、脂質異常症食、心臓疾患食、痛風食、肝臓食、肝不全食、膵臓食、腎臓食、透析食、潰瘍性大腸炎食、クローン病食などの特別治療食。

〇形態・・・普通、一口大、きざみ、ミキサー

〇付加食品・・・エンジョイクリミール(総合的な栄養剤)、ブリックゼリー、CP10

(当院採用分) リー(創傷治癒に特化)など。

〇経腸栄養剤・・MAラクフィア(標準的な組成)、インスロー(糖尿病用)、ハイネックス(当院採用分)イーゲル(胃内で半固形化)、ペプタメンスタンダード(消化態栄養剤)、 

リーナレンLPMP(腎臓病用)。

座学での実施は昨年から行っておりますが、実施した後に改めて、食事は説明を受けてから試食をすることで、参加して頂いた方々の記憶により残るものだと思いました。

来年度は可能であれば、実際に試食し、塩分6g未満の減塩食(最新の国民健康・栄養調査では食塩の平均摂取量は10.1g)、普段配膳や食事介助をする際に目にするエンジョイクリミールやブリックゼリーなどの味わい、普段は経鼻や胃瘻からで味わったことがない経腸栄養剤の試飲など舌で直接感じて頂ければと思います。

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  NST(栄養サポートチーム)

投稿者栄養管理室 北村 雄治
NST便り2023.7月号
2023年07月03日

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<リハビリテーション栄養について>

 リハビリテーション栄養についての勉強会が5月にアボットジャパン合同会社のスタッフにより行われました。今回は勉強会に参加できなかった方々向けに簡単に内容をまとめてみました。

リハビリテーション栄養とは『国際生活機能分類(ICF)による全人的評価と栄養管理・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、診断、ゴール設定を行ったうえで、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し、機能・活動・参加、QOLを最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である』と定義されています。スポーツ選手で例えると、サッカー選手はサッカーに必要なトレーニングと食事メニューがあり、野球選手には野球に必要なトレーニングと食事メニューがあります。スポーツ選手は試合で勝つための最大限のパフォーマンスを目標としますが、

リハビリテーション栄養は疾患を有する方、高齢者に対して、もう少し複雑で、かつ明確な目標を設定し、下の図のように、その都度評価していきます。

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この目標設定の過程を「リハビリ栄養ケアプロセス」と呼びます。図の中の『SMART』というのは「具体的・測定可能・到達可能・切実・重要・明確な期限」の英語の頭文字を取って付けられた名称です。

具体例を挙げますと「2週間後食事と付加食品で1600Kcal摂取が可能になる。」や「一か月後食事と付加食品の摂取で体重が1kg増加する。」などです。下線で示したように、明確な期限があって、内容が具体的で測定可能な目標を掲げています。

日本リハビリテーション栄養学会では、現在、エビデンスに基づいた代表的な疾患ごとのケアプロセスを作成中とのことなので、早く臨床の現場で活用できるよう私たちも勉強を続けたいと思います。

興味のある方は「日本リハビリテーション栄養学会」ホームページを覗いてみてください。

〈参考文献〉

アボット合同会社Nutrition Support Specialist Review Vol.13

日本リハビリテーション学会ホームページ

(今回は薬剤部 岡部幸男が担当いたしました) 

  NST(栄養サポートチーム)

投稿者薬剤部 岡部幸男
NST便り2023.4月号
2023年04月20日

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2023年4

<免疫栄養について>

 免疫栄養は、1990年代に生体防御能や免疫能を増強すると考えられる栄養成分を薬理量投与して、対象とする疾患の治療成績向上を期待して行われた栄養療法です。手術後の合併症予防や入院期間短縮、死亡率低下などの予後改善を目的として行われてきたわけですが、疾患、重症度、手術の術式、合併症の発生頻度などにより効果のバラツキが多く、救急期の患者さんでは効果が出にくいこともあり、現在は積極的に使用されることがなくなりました。ただ、現在でも手術が行われる疾患や癌領域での研究は欧米などで広く行われています。

 そんな中で、サルコペニア(筋減少症)の予防・治療や傷を早く治す効果がある成分が含まれている栄養補助食品を当院でも使用しています。主な成分と作用を下に示します。

CaHMB・・・・分岐鎖アミノ酸であるロイシンの代謝物。タンパク合成作用とタンパク分解抑制作用を併せ持つ。

・グルタミン・・・アミノ酸の一種。創傷治癒を促進させる。

・アルギニン・・・アミノ酸の一種。免疫反応の活性化と血管拡張作用がある。一方で、生体内でNOを発生させるため、細胞障害作用も有する。免疫活性化と合わせて、感染など炎症症状がある場合には症状が悪化することもある。

栄養が十分摂取できていない人は、体の中のタンパク質もエネルギーとして使われてしまうため、投与したアミノ酸がタンパク質になっても、すぐにアミノ酸に戻ってエネルギー源として使われてしまいます。アミノ酸、タンパク質を補助として使用する場合には、最低限の糖質摂取がなされていることが前提になります。入院されている患者さんの食事は、疾患、体の状態、食品、栄養補助食品を含めた全体的なバランスを考えていく必要があります。

最後に、2023113日から15日にかけて開催された第26回日本病態栄養学会学術集会で、この免疫栄養を活用した事例を発表させていただき、「座長賞」を頂きましたことを報告いたします。

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参考文献〉竹林克士:日本臨床栄養代謝学会Vol3(1):36-42.2021

鍋谷圭宏,坂本昭雄:外科と代謝・栄養541号:6-14.2020.2

Kazuhko Fukatsu:Ann Gastroenterol Surg:160-168.2019.3

土師誠二:外科と代謝・栄養502号:127-135.2016.4

Jeremy Z:Annals of Surgery:Vol236.No3.369-375:2002

(今回は薬剤部 岡部幸男が担当いたしました)

投稿者薬剤部 岡部幸男
NST便り2022.5月号
2022年05月09日

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<早期栄養介入と早期離床>

 私たちNSTの活動は、入院されている患者さんの栄養状態を改善し、入院期間を短くすべく行っています。今回は今年4月の保険改定で「早期栄養介入管理加算」が見直されたことから、「早期栄養介入」と「早期離床」の関係を少しお話してみたいと思います。

〇「早期栄養介入」

 重症患者さんが点滴栄養を行っていても、消化管を早く使い始めた方が回復も早く、予後も良いことがわかっています。早い時期に消化管機能が回復することの利点は嘔吐、下痢、誤嚥性肺炎の防止、消化管からの栄養吸収能の維持などがあげられると思います。ではどれくらいの栄養をどのタイミングで摂取したら良いかといいますと、高血糖、脂肪肝を避けるため、投与する栄養は「高たんぱく」、「少し低めのカロリー(70%位)」、「脂肪乳剤(点滴)の併用」などを目標に各学会ごとに基準が設けられています。

厚生労働省はデータに基づいて、病院の集中治療室(ICU)で入院後遅くても7日以内に経管栄養などを始めることに点数をつけていました。いくつかの論文で発表されている内容をまとめますと、手術などで食事を中断した場合、48時間以内に経管栄養を開始すると、早期に腸管機能が回復し、48時間以降に開始すると元の状態に戻るのにかなりの時間がかかるがわかっていますので、早く始めればその分点数も高くつくようになっています。

今回の保険改定では、この点数が集中治療室以外にも拡げられることになりました。詳細は紙面に限りがあるので今回はお話しいたしませんが、集中治療室以外で重症の患者さんが入室する場面においても点数がつくことになりました。このことは、入院患者さんへ消化管から栄養を投与することの評価が高まっている結果ともいえます。

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〇「早期離床」

 重症患者さんにおいて、「早期離床」は「早期栄養介入」と同じように身体機能改善、在院日数の減少などの効果があります。具体的には、様々な術後合併症、深部静脈血栓症や肺塞栓症、せん妄の予防や気道内の分泌物排出が促進され誤嚥性肺炎の予防につながります。早く離床することでリハビリを早く始められるので、筋肉萎縮、ひいてはタンパクの低下を防ぐこともできます。集中治療室で3日間寝たきりになると、筋肉量が最大20%減少するという報告もあります。反面、むやみに離症を早めてしまうと却って全身状態を悪化させてしまうことがあります。患者さん一人一人の病態と離床時期の見極めて判断することが非常に重要になってきます。今回、詳細は省かせていただきますが、様々な学会で論文が出され、研究されています。

「早期栄養介入」と「早期離床」は密接に関連しています。入院されている患者さんが早く退院できるように、私たちNSTも勉強を続けていきます。

NST(栄養サポートチーム)

投稿者:副薬局長 岡部 幸男
NST便り2021.12月号
2021年12月06日

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今年の夏は、例年になく暑い夏でした。札幌市によりますと、過去100年で札幌の年平均気温は2度以上も上昇しているとのことです。農作物や水産物への影響も心配ですが、私達NSTチームにとっては高齢者の方の脱水もかなり心配です。

<脱水症とは>

体の水分と電解質(おもに塩分)が同時に失われた状態をさします。

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<脱水症と熱中症の違い>

熱中症とは「気温の高い環境で生じる健康障害」のことで、熱中症の初期段階として脱水症が起こりますが、脱水は熱中症以外の原因でも起こりえます。

<熱中症以外の脱水症の原因>

発熱、嘔吐、下痢、食事摂取量不足(食欲不振)など。

<高齢者に脱水症が起こりやすいおもな理由>

  1. 体内の水分量が減っている〜体の中で最も水分を蓄積しているのは筋肉であり、この筋肉量が高齢者では減っているため。
  2. そもそも食事・水分の摂取量が減っていることが多い〜咀嚼・嚥下機能の低下によるものや、尿の近い症状を嫌い、水分をあまり摂らないようにすることがある。
  3. 腎機能が低下している〜尿を濃縮する機能が低下し、薄い尿がたくさん出てしまう。
  4. 喉が渇きにくい〜喉の乾きを感じる脳の働きが鈍くなっている。
  5. 尿の多く出る薬を飲んでいることがある〜高血圧症の治療薬として利尿剤や糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬を飲んでいる場合がある。

<脱水症を疑う症状>

  1. 皮膚や口の中の乾燥〜舌や脇の下が乾いている、皮膚をつまんでも元に戻らない、爪を押すと白くなったままピンクに戻らない、など。
  2. 手足の冷感〜握手して冷たく感じる。
  3. 尿の回数・尿量が減る。
  4. ぐったりしている、反応が鈍い。

<脱水症になると>

脳の血流が減少するため、めまい、ふらつき、頭痛、悪心がおこる。高じると意識障害や痙攣が起こる。

全身の臓器血流も減少するため、肝不全、腎不全、心不全などが起こる。

<予防法・治療法>

夏は、気温の上昇に伴う発汗により脱水症になりやすい状況です。普段からこまめに水分を摂る、食事をしっかり摂る(食事には一日約1リットルの水分が含まれていると言われています)ことを心がけましょう。水分を摂る代わりに、果物やゼリーなども良いと言われています。夏は部屋の温度や湿度の管理も重要です。

脱水症になってしまったら、水分と電解質(主に塩分)を同時に補うことが必要です。口から飲める状態であれば、スポーツドリンクや経口補水液が有効です。経口補水液はスポーツドリンクと比べ、塩分が多く糖分が少ない組成になっており、より塩分を吸収しやすくなっています。スポーツドリンクは糖分が多いことから疲労回復に役立つと言われていますが、一方、多量に飲むと糖分を摂りすぎてしまうことがあります。一般に、脱水症の治療には経口補水液、予防にはスポーツドリンク、と言われています。水分をむせやすい場合は、ゼリータイプの飲料を利用すると良いでしょう。

脱水症が高じて意識がもうろうとしたり、倦怠感が強く、口から水分を摂ることが困難な場合は、点滴が必要になります。

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参考文献

・大場真波ほか. 高齢者の病気と薬の基礎知識(第18回)脱水症(水・電解質異常).おはよう21 31(7) : 50-53, 2020.

NST(栄養サポートチーム)

投稿者:IBDセンター部長 折居 史佳
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