「寝ぼけながら鼻をかむ」 大島 美保
2013年12月02日
 リレーエッセイに際し、気が利いた面白い話を書いてみようと思いを巡らすものの、これといって思い浮かばない。そんな中、中学時代の友人の話はインパクトが強く、今でもいの一番に思い出す……とは言っても些細なところはどうだったかしら。でも懐かしいので紹介しようと思う。

 彼女は寝苦しいある日の夜、鼻水が止まらなかった。暗がりの中、枕元のティッシュを手探りする。鼻をかんではゴミ箱へ。かんではゴミ箱へ。眠気もありぼーっとする中、いつしか止まったのか。
 翌朝、ゴミ箱には鼻をかんだたくさんのティッシュ。しかし、なぜかふとんに散乱するパンくずに首をひねる。そういえば昨日、給食のあまったパンを持ち帰ったっけ。おや?袋が開いて半分くらいに減っている。さては妹か。姉が寝ているすきにこっそりつまみ食いをしたに違いない。ちょっと叱ってやらねば……と鼻頭をかく彼女の鼻には大量のパンが詰まってましたとさ。

 この話をバスの中で友人に聞かせていた彼女は、近くの乗客をも爆笑に誘ったことがたいそう楽しかったらしい。聞くまい聞くまい、と思いながらも耳をそばだてる見ず知らずのお客さん。話の佳境でこらえきれずにいっしょに吹き出すなんぞはコメディー映画の一コマみたい。
 そんな彼女は今や世界で活躍するお医者さん。大物はひと味違う。心から尊敬します。

投稿者小児科医長 大島 美保
「ピロリ菌のお話」 佐藤 康永
2013年11月25日
ピロリ菌・・・可愛らしい名前の細菌ですが、実は怖い細菌です。

ピロリ菌に免疫力の弱い5歳頃までの間に起こるとされており、日本では人口の約半分の6000万人が感染しているといわれています。年代別では高齢者ほどピロリ菌に感染している方は多い傾向にありますが、これは加齢によるものではなく幼児期の下水道の発達等の生活環境が影響していると考えられています。

ピロリ菌が胃にとりつくと、繰り返し炎症を起こし(慢性胃炎)、長い年月の後にピロリ菌に感染している一部の患者さんが胃潰瘍や十二指腸潰瘍・胃癌等を発症するといわれています。

ピロリ菌に感染していると、上記のような危険があることから、12年くらい前からにピロリ菌の除菌治療が行われるようになりました。最初は(除菌を行う際の)保険診療が認められていたのは胃・十二指腸潰瘍のみでしたが、 慢性胃炎の状態で除菌治療を行うことで、より胃癌の予防に繋がることが以前よりいわれており、今年の春からは慢性胃炎にも保険診療の適応範囲が拡がりました。

ピロリ菌に感染しているかどうかの検査は、胃カメラをお受け頂かなくても呼気(口から吐く息)を利用してできる簡単な検査で分かります。但し保険診療上、ピロリ菌に感染を起こした胃の状態を見つけるためには胃カメラが必要です。

検査を行った結果、ピロリ菌の感染していることが分かった場合に行う除菌治療は胃薬1種類と抗生物質2種類の計3種類の飲み薬を1週間内服して頂くだけの簡単な方法です。除菌治療の効果は90%程度といわれています。

最後まで読んで頂いて有り難うございました。ピロリ菌感染が心配になられた方は、消化器内科外来を受診して下さい。
投稿者消化器内科医長 佐藤 康永
「最近の喘息治療薬の進歩」 伊藤 喜代春
2013年11月18日
喘息の治療は、1990年前後に各国よりガイドラインが発表され、日本も1993年に喘息管理のガイドラインが発表された。喘息の病態が、慢性の気道炎症と定義され、吸入ステロイド薬が軽症から重症まで有効であると明記した。難治性喘息は別にして、一般内科医もガイドラインに沿って治療すれば、喘息の治療もそれほど難しくないと思われた。しかし、吸入ステロイド薬が一般の内科医に定着するには、それなりに長い年数を要した。
ガイドライン発表から20年ほど経過したのであるが、確かに吸入ステロイド薬の効果は絶大なもので、導入以来、喘息死は、1960年代には、1万人を超えていたのであるが、2012年の死亡者数は、2000名をきった。約5分の1に激減したのである。
吸入ステロイド薬の進歩は、目に見張るものである。吸入ステロイド単剤は、アルデシンに始まり、キュバール、パルミコート、フルタイドと進化し、2006年には、吸入ステロイドとβ刺激薬配合剤のアドエアが発売され、その後、2010年1月に、シムビコートが日本で販売開始された。アドエアとシムビコートの違いは、後者のほうが、気管支拡張作用が強く、親水性の高いブデソニドは、粘液層を通過しやすいため、粘液分泌亢進していても効率良く気道組織の炎症細胞に到達することである。しかし、高価であることがネックである。アドエアが使用されるようになって、難治性の喘息患者を除いてほとんどの喘息患者さんのコントロールは、容易になった。それでもやはり、内服のステロイドから離脱できず、日常の活動が制限されている患者さんが少なからずいた。
そこにシムビコートが登場し、高用量ではあるが、日常生活が制限されていた患者さんが、内服のステロイドより離脱し、ウオーキングもできるようになったと喜んだ患者さんもおり、アドエアでコントロール不良の患者さんは減少した。シムビコートでコントロールが良好になったとはいえ、極めて難治性の患者さんもいる。
最近も喘息発作を頻回に起こし、今年だけでも5回も入院した20代歳の男性がいた。
7月よりゾレア(ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤)勧めていたが、高額薬品のため治療に踏み切れないようであった。
もう4年前になるが、頻回に入退院を繰り返し、途方に暮れていたが、56歳の女性に
ゾレア治療を勧め大学病院に紹介した。ゾレアが著効したようで昨年1度入院し、1度外来で点滴しているが、今年は受診していない。2週間に1度の皮下注射と高額医療がかかるが、頻回の喘息発作に苦しみ、われわれの精神的負担を考えるとよいであろうと20代の男性患者に勧めたのである。
10月の下旬に難治性喘息の講演会に出席し、東京のある大学病院では、3000名ほどの喘息患者を治療しており、ゾレア治療患者が、100名以上おり、内服のステロイドはあまり処方していないとの報告を聞いてゾレア治療の敷居が低いのには驚いた。医療費が膨大にかかるが、東京の富裕層か医療費のかからない患者さんに治療しているのであろう。ゾレア治療患者さんは、北海道では、おおよそであるが、30名未満であろうと思われる。札幌の演者からは、頻回に喘息発作を起こし、ゾレア治療の選択肢しかないと考え、2例に試みともに、著効した症例が発表された。
先日、喘息の専門医にまだ治験段階であるが、月に1度入退院を繰り返していた患者さんに抗インターロイキンー5抗体(メポリズマブ)で治療し、著効したとの話があった。今後、ますます、喘息の治療が進歩していくことを期待する。
投稿者内科医師 伊藤 喜代春
「私のナンバーワン映画」 倉 秀美
2013年11月11日
映像技術の著しい進歩により、最近の映画はハラハラドキドキが中心で観終わった後の
なんとも切ない気持や放心状態になり、暫く現実から逃避してしまいそうになるあの
特別な感情にひたることはなくなってしまったように感じる。
初めて映画で衝撃をうけたのは小学校5年生の時に新宿ピカデリーで観たサウンドオブ
ミュウジックである。突然大スクリーンに両手をひろげジュリー=アンドリュースが
出現し、美しい歌声で歌い始めたのである。こんな美しい人がいるんだと感激しまた
数々の有名な歌に感動し、多くの優しい人々の出会いや家族愛に心をうたれ、映画が
終わった後も暫し放心状態であったことを思い出す。その後歌を歌うのが大好きになり
合唱部に入部した。
私は基本的にはロマンス(ハッピーエンドの)映画が好きである。中学2年で観た
昼下がりの情事では駅のシーンでオードリーヘップバーンをゲーリー=クーパーが抱き寄せる場面で感激し、同じ年で観た旅情でのキャサリン=ヘップバーンが汽車から美しく
手を振るシーンで涙を流し、やはり同年に観た心の旅路でグリア=ガースンが自分の心を
押さえながらロナルド=コールマンの記憶がよみがえるのを待ちわびる心の葛藤に切なくなり、誰がために鐘はなるでゲーリー=クーパーがイングリット=バーグマンを思いながら死んでいくシーンで彼の横顔に感動し、ある夜の出来事でクラーク=ゲーブルが一生懸命クローデット=コルベールを守るシーンに感激し、(結局かなりませていた)ローマの休日でオードリー=ヘップバーンが最後にグレゴリー=ペックを見つめ涙を眼に浮かべるシーンに心をうたれ、追憶でバーバラ=ストライサンドがロバート=レッドフォードに道で偶然出会って見つめあい、バーバラの眼が涙でいっぱいになるシーンとその主題歌に深く感動し、ああ映画って本当にいいなと何度も観るたびに思った。
結局私のナンバーワン映画は何だろうと考えたときにいままで挙げた映画すべてが私にとってのナンバーワンである。最後にチャップリンの独裁者はチャップリンがその肉声を初めて映画で聞かせあの感動的な演説をし、現代社会にも十分あてはまる意味で忘れることのできない映画である。映画って本当にいいですね。
投稿者整形外科部長 倉 秀美
「月9」 長尾 知哉
2013年11月02日
 学生時代は友人たちと酒をそれなりに飲んでいたつもりだったが、研修医になってから飲む機会が減ってくると、やがて飲めなくなってしまった。今となっては酒をたしなむのは年に数回である。研修医のころは「ベロベロに酔っぱらって手術をした」とか「当直でしこたま飲んで心臓マッサージをして救命した」という「武勇伝」をよく先輩医師から聞かされたものだが、今頃そのような医者はもういないし、世間が許してくれない。

 ある月曜日に家でテレビをつけると、ベレー帽をかぶったあやしいおじさんが下町の小汚い居酒屋でただ酒を飲んで煮込みを喰らっていた。ちょっといいことや講釈を垂れることもなく酔っぱらい、「ご常連」と乾杯ばかりし、自作の句を披露して番組は終わった。

 以来月曜夜はこのおじさんのトリコである。週初め「月9」に恋愛ドラマでヤキモキしたり政治番組で世を憂うこともなく、ただ初老のおじさんが酔っぱらっている姿を眺めている。ろれつが回っていない回は、「この店ははまったな」と見ているこちらがうれしくなる時もある。


 吉田類。『「無縁社会」から「酒縁社会」』を提案し、全国の居酒屋を旅している「酒場詩人」。北海道でもおなじみで、ただみんなと乾杯するだけのディナーショーにパークホテルが道内各地からの人でいっぱいになってしまう。

 「吉田類の酒場放浪記」はBS-TBSで月曜夜9時から放映している。浮世を気にせずただ酔っぱらいたいが、やはり気になり酔いきれない、という世知辛い世の中に生きる多くの人が酒場で出会う他人とのあたたかさを求め、一人のおじさんが酔っぱらっていく様に自らを映しているのかもしれない。


投稿者外科医長 長尾 知哉
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