2025年4月
〈睡眠薬と食事量の関係〉
3月のNST勉強会は睡眠薬が食事量に与える影響をお話させていただきました。
NSTで回診していますと、眠たくてぼーっとした状態の患者さんが食事を
しっかり食べられていないケースが散見されます。
もし、病院で服用している薬が原因で食事ができなくなってしまうようであれば、
解決したいと思い、今回は睡眠薬に的をしぼってさせていただいた次第です。
眠たくてボーッとした状態で食事量が上がらない原因を「認知機能の低下」と
「嚥下機能の低下」に大きく分けてお話をさせていただきます。
・食べ物の認知は大脳の「大脳辺縁系」でおこなわれます。ここでは記憶の仕分け、記憶の符号化、
検索などの働きがあり、食べ物を目で見たり、匂いを嗅いだりすることによって「空腹感」に基づく
「食欲」が生ずると考えられています。一部の睡眠薬はこの部分にも作用するため、
「食欲」が落ちる可能性があると考えられます。
・次に食べ物が口に入った時のことを考えてみます。食べ物が口にはいると「咽喉頭粘膜」の感覚器官が
「食べ物」が入ったことを認識します。この情報が延髄にある「嚥下中枢」に届き、「食べ物」が
口の中にはいったことを大脳に伝え、味、温度、硬さなど情報が認識されます
。同時にこの「嚥下中枢」から嚥下に必要な筋肉を動かす指令が出されます。
上記と同様、一部の睡眠薬は「嚥下中枢」にも作用するため、食べ物の呑み込みが
うまくいかなくなる可能性があると考えられます。
現在、使用されている睡眠薬は「オレキシン受容体拮抗薬」、「メラトニン受容体作動薬」、
「GABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)」の大きく三つに分けることができます。
オレキシンは脳内の視床下部で産生され、神経細胞のオレキシン受容体に結合し覚醒を促します。
結合を邪魔するのが、「オレキシン受容体拮抗薬」になります。
メラトニンは松果体で産生される、覚醒から睡眠への移行を促す脳内産生物質です。
メラトニン受容体は目で見た情報を脳に届ける神経上(主に視交叉上核)に多く存在します。
メラトニンの代わりをする薬が「メラトニン受容体作動薬」です。
GABAAは興奮した神経細胞を鎮める脳細胞で産生される物質です。脳神経の興奮した神経細胞のGABAA受容体に
結合して興奮を鎮めます。この作用を強めるために開発されたのが、同じ受容体に結合する
「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」になります。
「オレキシン受容体拮抗薬」、「メラトニン受容体作動薬」は大脳辺縁系や嚥下中枢への 影響は弱いのですが、
「GABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)」が作用する「GABAA受容体はこの部分に
比較的多く存在するため、薬の効果も出やすいですが、副作用の起こる可能性も出てきます。
「オレキシン」も「メラトニン」も「GABA」も元々頭の中に存在する伝達物質ですので、
日頃のストレスや睡眠不足などが日々の食欲に影響を与えると思います。
薬を使用する前に生活のリズムを整えることも大切になります。
(今回は薬剤部 岡部 幸男が担当しました)
NST(栄養サポートチーム)