2024年10月
NST活動では患者様ごとに一日に必要なエネルギー量の目安を算出し、
そのエネルギー量が摂取できるようプランを立て、支援を行っています。
この「一日に必要なエネルギー量」は「基礎エネルギー代謝量:basal energy expenditure : BEE」と
「活動係数」と「ストレス係数」により算出されます。
「一日必要エネルギー量」=「基礎エネルギー代謝量」x「活動係数」x「ストレス係数」となります。
基礎エネルギー代謝量というのは、健康な人が何もしないで横になっているときに生命を維持するために
必要なエネルギー量のことです。活動係数というのは、どれくらい体を動かすかの指数、ストレス係数というのは、
病気やケガがあるためにどれくらい余計にエネルギーを使っているか、という指数です。
活動係数は、寝たきりだと1.0、ベッド上安静だと1.2、一般労働では1.5〜1.7程度、ストレス係数は、
感染症で1.2〜1.5、術後で1.1〜1.2、熱傷で1.2〜2.0と言われています。
今回のNSTたよりでは、この基礎代謝エネルギー量の測定法の歴史について書いてみようと思います。
17世紀、ガリレオ・ガリレイが活躍したのと同時期に、イタリアの医師で科学者のサントリオ・サントリオが
現代の「基礎代謝」に相当する事実を発見しました。彼は20歳代から30年間にわたり、毎日、食前食後、排泄の前後、
睡眠の前後に大きな秤に乗り、体重を測定、また、汗を含む排泄物の量もはかり、記録しました。
その結果、排泄物の量は一日に食べた物の量の半分以下であることに気づき、この差の分は、知らぬ間に汗孔から蒸発したと考えました。
しかも、その量は、部屋の環境や運動の量で異なることも発見しました。この研究は当時の人々を驚かせただけに終わりましたが、19世紀後半に物質代謝が論じられるようになって初めて、脚光を浴びることになりました。
サントリオは体温計と脈拍計の発明者としても知られています。
19世紀後半から20世紀にかけて直接熱量測定法(装置)が開発されました。これは断熱材で完全に密閉され、
室温を冷却水で一定に保つようにした小室をつくり、その中に被検者が入り冷却水が加熱される程度から
被検者の放熱量を知ろうとするものでした。この装置による4日間の測定結果が、摂取した食物エネルギーから、
排泄された尿・便のエネルギーを引いたものと一致したことが報告され、サントリオが「知らぬ間に汗孔から蒸発した」と考えたエネルギーが「基礎代謝」であることが証明されました。
直接熱量計が大型で高度な技術を必要とするため、より簡便なものとして、生体の酸素消費量、二酸化炭素産生量、
尿中窒素量を測定し、呼吸商および非蛋白呼吸商を算出してエネルギー代謝を測定する間接熱量計が、ほどなく開発されました。
現在も基礎エネルギー代謝量(厳密には基礎エネルギー代謝量にストレス係数をかけた安静時エネルギー消費量)を測定する場合は、この、間接熱量計が使用されています。
間接熱量計は高価なため、すべての医療機関に配置されているわけではありません。当院にも間接熱量計はありません。
そのような場合には、ハリス・ベネディクトの式という計算式を用いて、基礎エネルギー代謝量を推定しています。
参考文献:
基礎代謝測定法の原理 中野昭一 検査と技術13巻8号 p706-710
科学的診断の先駆者サントリオ 小川鼎三 medicina8巻1号 p130
検査を築いた人々サントリオ・サントリオ 酒井シヅ 検査と技術10巻11号p996
(今回はIBDセンター 折居史佳が担当いたしました)
NST(栄養サポートチーム)