NST便り2021.6月号
2021年06月10日

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今月のNST便りは,言語聴覚士が行っている「直接的嚥下訓練」についてご紹介します.

【直接的嚥下訓練とは】

直接的嚥下訓練は,安全に嚥下するための方法を身につけ、食物を嚥下することを通じて嚥下機能を改善させる訓練です.安全に嚥下するための方法には,姿勢調整,食物形態調整,嚥下手技,食器の工夫,環境調整などがあります.

【直接的嚥下訓練の適応】

直接的嚥下訓練は食物を用いて実際に食べることにより,摂食機能を高める訓練であるため,誤嚥や窒息など深刻な問題を引き起こす可能性があります.訓練の適応を知り,条件を満たしているかを確認して訓練を行うことが大切です.要点を以下の表にまとめてみました。

直接的嚥下訓練の注意点

経口摂取開始の前提条件

✓医師・歯科医師の指示により開始.

(前提条件,開始基準の理解)

✓実施基準の遵守

✓訓練中は状態をチェック

✓問題があれば医師,他スタッフへ報告

✓意識が覚醒:JCSで1桁

✓全身状態安定:重篤な併存症なし,バイタル安定,脱水・栄養障害なし

✓呼吸状態安定:Spo2 95%以上,呼吸数20回分/未満

✓唾液,少量の水で嚥下反射あり

✓口腔内が清潔で湿潤している

体調・状態の変化

覚醒状態,顔色,呼吸状態

嚥下状態

✓むせ,咳,湿性嗄声

✓呼吸,声の変化

✓口腔内残渣

摂食状況

姿勢や摂食方法など遂行状況と効果

詰め込み,流し込み,注意散漫など危険行動の有無

訓練を中断すべき状況

直接的嚥下訓練中止を検討すべき

✓頻回なむせや湿性嗄声

✓発熱

✓痰の増加

✓炎症反応(CRPWBC高値)

✓意識状態悪化

✓全身状態悪化

✓肺炎を繰り返す

✓再評価にて食物誤嚥・唾液誤嚥

✓呼吸状態悪化が持続する

✓意識状態悪化が持続する

✓全身状態悪化が持続する

✓長期にわたる拒食

【段階的摂食訓練】

食物形態を段階的に上げていく訓練です.リスク管理には十分注意を払うことが重要です.小児から高齢者までいずれの年齢層において,何らかの理由で長期間摂食を行っていなかった場合,段階的に摂食を進めることによって,安全で効率的に摂食が可能となる場合があります.(下表)

段階的摂食訓練における難易度のアップ

1.食物形態の難易度を向上させる

2.摂取食物の量を向上させる

3.食事摂取頻度を向上させる

4.食事介助から自力摂取へ変更する

5.代償的な食事摂取方法(摂取方法・姿勢・一口量)を減らす.

※まず食物形態と量を向上させ,次にその他の条件を変更します.

※上記条件を複数同時に変更しないことがコツです.

条件を一つずつ変更することで,万一トラブルが発生した時にもすぐに原因がわかり,対処できます.

【食事アップの基準】

  • 摂取時間が30分以内で,7割以上摂食が3食続いたとき.

※チェックポイントを観察して,明らかな変化がない場合のみ食事アップします.

※嚥下障害が強く疑われるときは,9食(3日間)の様子をみて下さい.

食事アップ検討時のチェックポイント

✓発熱の有無

✓呼吸状態

✓呼吸音

✓胸部X線写真

✓排痰量

✓咳の有無

✓患者の訴え

✓食事時間

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~最後に~

 今回はST目線で,専門的な内容になりましたが,経口摂取を継続することが一番の訓練になります.しかし,誤嚥を完全に防ぐことは難しいことです.なぜ,食事形態を調整するのか,簡単な物性から始めるのか少しでもご理解いただければと思います.

投稿者言語聴覚士 河崎 大法
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