NST便り2019.2月号
2019年06月12日

【 NSTの流れ その2〜栄養の組み立て〜 】
2018年10月のNST便りで、NST活動における「栄養評価」について書きました。今回は、その続きとして「栄養の組み立て」についてお話ししようと思います。
「栄養評価」で入院された患者様の栄養状態がよいのか悪いのかが分かったら、次には栄養状態を改善するように「栄養の組み立て」を行います。

【 1日の必要栄養量の算定 】
健康な日本人が1日に摂るべき栄養量は、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で発表しています。

このなかで、健康人における1日に必要なエネルギーの量(総エネルギー消費量)は、基礎代謝量(覚醒状態で必要な最小限のエネルギー)×身体活動レベル(活動係数:体を動かす激しさの程度)とされています。例えば、座り仕事の場合の身体活動レベルは1.75程度、立ち仕事の場合は2.0です。
しかし、入院中の患者様の場合はこれに加えて、「病気であることで消耗するエネルギー量」を考慮しなければなりません。
すなわち、1日に必要なエネルギーの量(総エネルギー消費量)は、基礎代謝量×身体活動レベル×ストレス係数(患者様がかかっている病気がどの程度エネルギーを消耗するものなのかを示す指数)で決定されます。たとえば、がんの患者様のストレス係数は1.1〜1.3、感染症の患者様だと1.2〜1.5といわれています。
このように、1日に必要なエネルギー量を計算するのですが、基礎代謝量を実際に計測するには大がかりな装置が必要となり、病院内でそれを測定することができないので、NST活動では年齢、性別、身長、体重などから必要エネルギー量を推定することが行われています。代表的な推定式は、1919年に発表されたHarris-Benedictの式などです。

【 必要エネルギー量の各栄養素への割り振り 】
1日に必要なエネルギー量(総エネルギー消費量)が決定したら、次にそれを各栄養素に割り振り、食事や栄養剤、点滴の内容を決めていきます。
各栄養素の割り振りは一般に以下の順番で行います。

1) たんぱく質:たんぱく質は筋肉や内臓など体の組織を構成する物質で、人体にはなくてはならないものです。健康な人の場合の1日に必要なたんぱく質の量は体重1kgあたり0.8〜1.0gといわれていますが、身体的ストレス(ストレス係数)が高いほど、より多くのたんぱく質が必要となると言われています。従って、患者様のかかっている病気にあわせてたんぱく質の量を決めていきます。
2) 脂質:脂質は健康人では摂りすぎると冠動脈疾患(心筋梗塞など)の危険が増しますが、脂質自体は、各栄養のなかで一番のエネルギー源であり、細胞膜の構成成分であるという重要な役割があります。脂質の目標摂取量は総エネルギー消費量の25%前後といわれています。
3) 炭水化物:炭水化物は最も重要なエネルギー源といわれ、とくに、脳、神経、赤血球、腎尿細管、精巣などはぶどう糖しかエネルギー源として使用できません。炭水化物はこれらの組織へのエネルギー供給源となります。炭水化物(糖質)の摂取量は総エネルギー消費量のおよそ50〜65%とされています。

また栄養素とは異なりますが、1日に摂取する水分量も決めていきます。
4) 水分量:およそ、現在の体重(kg)×25〜30mlといわれています。心臓病、腎臓病のある患者様はこれより少なくなる場合があります。

当院NSTでは、このように決定した栄養量を患者様が満たしていけるよう活動を行って参ります。

参考資料:認定NSTガイドブック2017 南江堂
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)

投稿者IBDセンター医師 折居 史佳
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