「人はなぜ二足歩行を行うようになったか」 関山 伸男
2024年03月11日

 人生にはある日突然目の前の曇りが晴れて遠くを見通せるようになったような気がする時がある。"進化の技法"という本はそのような気持ちにさせる一冊である。

 生物は変化する。その変化が生存に好都合であれば進化したと認識する。このような生物の変化は遺伝子におけるDNAの変異による。この本によればDNAの変異は何かを目的におきるものではなくて、ただやみくもに変異を行っているように見えるという。その結果生物に新たな構造の変化が起きたとしても当初は役に立たない変化かもしれないと。たとえば魚の浮袋がのちに酸素を取り込んで陸上生活を可能にしたり、魚の鰭が陸上に上がる前に手足に変化して陸上生活を可能にしたり、目的を持った構造の変化以前におきた構造の変化から目的の機能の変化を取り出したこれらの例などは進化と呼ばれるにふさわしいかもしれない。このような構造の変化はDNAの変異によるが、想像も難しいが数万個のDNAが一度に変異することがあった。昆虫が変態するようになった時や、哺乳類が卵生から胎生に変わった時などは、数万個のDNAが一度に変異を行って新たな構造を獲得したということである。46億年の生物の歴史の中で起きた、たった1回の信じられないような出来事である。

 さてそのような生物の進化の歴史の中で人間が生まれたのも壮大な遺伝子の変異の産物であることは言うまでもない。人類がチンパンジー類と別れたのが700万年ほど前と考えられており、この時に始まった人類としての変化が直立二足歩行と犬歯の縮小と言われている。犬歯の縮小は食性の変化と考えられているが、直立二足歩行は諸説が並立しており、定説はまだ確定していない。"進化の技法"に準ずれば何の目的もなく直立二足歩行が生じた可能性は"有り"ということになるが、その構造的変化はどのようなものであろうか。DNAの変異が何個関わっていたかは分からないとしても、見た目が変わったところは脚が長くなったところであろう。直立二足歩行は脚が長くなったための機能の変化とも言える。ゴリラもチンパンジーも四足歩行を遂行するために腕の方が長い。人類は脚が長くなって四足歩行が出来なくなったためやむを得ず二足歩行に移行して、さらにしっぽのない人間がバランスをとるために直立したと考えられる。

 直立二足歩行が人類の生存に有利であったのは言うまでもないことで、それはその後の歴史が証明している。自由になった手を使っての防御には最初はおそらく動物の骨や木の棒などが上手に使われたであろうし、固定した住処に骨髄などの栄養の入った骨などを運んだりしたであろう。偶然に脚が長くなったために直立二足歩行をせざるを得なくなった人類のその後の歴史を見ると、偶然に脚の長くなった事が直立二足歩行を選択させたとの話は妙に納得できる説とも考えられるがどうであろうか。

(参考文献)

「進化の技法」(みすず書房)ニール・シュービン著、黒川耕大訳。

「絶滅の人類史」(NHK出版書房)更科 功著。

投稿者内科主任部長 関山 伸男