「鼻血」 小笠原 卓
2020年02月17日

 幼少の頃、よく鼻血を出していた。よくというか今思えばかなり頻繁に出していた気がする。連日大量に鼻血を出していた時期もあった。夜間に出血することが多いため、枕元には常時ティッシュの箱が置いてあり、止血に使用したティッシュで小さいゴミ箱が朝には一杯になることもあった。頻回に鼻出血をきたすため、小児科および耳鼻科によく通院していた。実際に血液の凝固機能を調べたこともあるようだが正常だったらしい(結果は知らない)

 鼻血に関して子どもの頃に恐怖した内容が2点ある。今となってはどちらも馬鹿な話だが、当時は比較的深刻に捉えていた。

 一つ目は、夜大量に鼻出血した時の翌朝に出てくる凝固塊に関しての着想である。鼻血を出したことがある人ならわかるかもしれないが、出血した血の塊が凝固塊(コアグラ)となって鼻の詰め物などに大量に付着するのである。子ども心に、これは「レバー(肝臓)」ではないかと考えた。鼻からなぜ自分の肝臓が出てくるのかは定かではないが、レバーが何らかの機序で鼻から出てきているのではないか。鼻と腹腔内がもしかすると血管を通じてつながっているのだろうかなどと夢想した。しかし、こちらは子どもでも馬鹿げた話だとすぐに捉え直し、何なのかはわからないが、鼻血の副産物のようなものが付着しているのではないかと判断した。

 二つ目はもう少し深刻な着想である。すなわち出血多量でいつかは死ぬのではないかと考えた。子どもの時に人体の図鑑で、"牛乳瓶7本半の出血があると命が危ない"という記載があった。これは一気に失血した時に限っての話だと思うが、当時は急性失血と慢性失血の区別がつくはずも無く、夜な夜な鼻血をだす度に、「これで一昨日から数えて牛乳瓶半分は出血した。先週からは1本半くらい出ているから、そのうち7本半に到達して来月あたりには死ぬのかもしれない」と怯えた。よい子にしますから、鼻血で僕を殺さないでください.........と神にお願いしたかどうかは定かではないが、とにかく累積鼻出血量が致死量に達するのに怯えた時期があったのは確かである(当然この頃、人間は出血していても、毎日しっかり体の中で血液が作られていることも知らなかった)

 しかし予想に反し僕は死ななかった。小学校高学年で耳鼻科にかかり鼻粘膜の血管を焼いてもらってからは全く鼻出血なく今に至っている。慢性的な鼻炎が背景にあったことと、鼻をいじる癖があったことが鼻出血を頻繁に繰り返した原因と今は思っている。

 止血の基本は圧迫止血である。幼少時、頻回に鼻出血を経験し、病院に頼らず自分自身で工夫して止血の基本を体得した。そのことが医者になった今、意外に役に立っているようにも思えるのである。

投稿者小児科医長 小笠原 卓