「コンサートの夜」長尾 知哉
2020年01月14日

高校2年生までさかのぼる。物理の授業中に隣は教科書ではなくグラビア週刊誌を広げていた。

「おい、森高千里が来るで」

「モリタカ?何しに?」

「そら、コンサートや」

「それは行かないかんのー」

 携帯もない、コンビニもない、「ぴあ」もなくCDショップでチケットが売られていた時代、先行発売もない。いい席をどうやって確保するか?単純である。我々が選択したのは「夜中から並ぶ」ことであり、発売日の午前3時に集合した。それでも同好の士であり争奪戦の敵は集まってきた。30人ほど集まっただろうか。深夜放送で朝まで寝ないのは慣れていたが11月の夜中は四国であってもさすがに寒い。「ストレスが地球をだめにする」と思いながら缶コーヒーを手に開店まで6時間ひたすら待った。

 しかし、座席は開店時に来ていた人でのくじ引きであり、6時間寒空の下で立っていただけであった。それでも我々は7列目をゲットした。放課後学ランを脱ぎ私服に着替えた我々は近くの市民会館に向かった。見上げたモリタカは美しく眩しかった、としか書けない。やがてコンサートは終わり、うどんをすすりながら受験関係なく来年もコンサートに行くことを誓いあった。寒い日だったが、「星空が広がっていた、あの夜は」。

 大学を出た私は「(それだけではないのだが)東京に行けばモリタカに会える」と上京した。しかし、わずか2ヶ月後、江口洋介に獲られた。ワイドショーの音声を耳に診察を終え病室を出た私は、東京での浮かれ気分を捨て、真面目に医者をすることを心に誓った。「これからがほんとの私の青春だわ」と。

 あれから20年経った。あの時以来全国ツアーをするモリタカに私は会いに行った。ステージには変わらず美しく眩しい森高千里がいた。モリタカはオバさんになったと自ら言う。ということは当然ながら私はオジさんになった。しかし「私は今、生きている」のは17歳の夜と何も変わらない。

投稿者外科/乳腺外科医長 長尾 知哉
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