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「コード・ブルー」長尾 知哉

投稿日時:2017年12月18日 09:53 月曜日

「寄席でも選挙でも、真打ちは最後に上がるもんだ。」
 参議院議員選挙で最下位当選した立川談志の名言である。

長野県は全体が「山」であり、人々は「平」と呼ばれる盆地と山あいの集落で暮らしている。救急車は山あいを縫うように走り平に下りるか、山越えを強いられるかであった。救命救急にとっては「時は金」ではなく「いのち」である。かくしてドクターヘリが配備されることとなった。

「先生、ヘリ、乗ってもらうから。」
救急部長はすれ違いざまにわたしに伝えた。わたしには妻と乳飲み子がいる、乗り物酔いする、高いところが苦手、など話したのだが、
「うん、大丈夫。先生、何でもできるでしょ?」
救急部長の言葉は答えになっていない。

こうして全国で10機目となる「信州ドクターヘリ」の運用開始となった。しかし、鳴り物入りで始まったものの全然出動要請が来ない。前例がないので救急隊は要請を逡巡していた。早朝から意気揚々と出番を待っていたドクターが日没とともに消沈し運行終了を迎える日々が8日も続いた。

9日目。小雨降る梅雨冷えの日がドクター陣最後、わたしの出番であった。午後になっても要請は来ず、当直室で昼寝をしていたまさにその時であった。
「ドクターヘリ、エンジンスタート!」
PHSがけたたましく鳴った。
「オ、オレかよ・・・。」
ヘリポートへ向かうとヘリはプロペラを回し、病棟の患者は何事かとヘリポートを眺める。ヘリはわたしを迎え入れるとそのまま浮き上がり霧雨の空を軽井沢に向けて急行した。別荘の屋根からの転落外傷だった。ミッションを終えた途端に次の要請、再びわたしは飛んだ。救急隊は気づいたのだ。これからはヘリが医師を連れて迎えに来てくれることを。

ドクターヘリは全国に配備されドラマにもなった。信州ドクターヘリも出動4000件を超えた。しかしこれだけは変わらない。

信州ドクターヘリは、わたしから始まった。
寄席でも選挙でもヘリでもそうだ。やはり真打ちが飛ばないと始まらないのだ。

最後にドクターヘリにまつわるQ&Aを。
Q1)新垣結衣や戸田恵梨香のようなフライトドクターはいたの?うらやましい。
A1)まだ救急に女性医師がほとんどいなかった時代でドクターは全員男性だった。
Q2)比嘉愛未のようなナースはいたの?
A2)いた事に、しておきましょう。
Q3)じゃあ、山下智久は?
A3)今はヘリを降りて札幌にいるみたい。「ヘリだろうが歩いて来ようが、救う『いのち』は同じだ」って。彼のスタンスは変わらない。

投稿者:外科・乳腺外科医長 長尾 知哉