最先端24時間救急医療、外傷センター、日帰り手術の札幌徳洲会病院
札幌徳洲会病院 北海道 札幌 -最先端救急医療・新たな気持ちでここから心から

「看護におけるからだの見方」 関山 伸男

投稿日時:2017年7月18日 16:38 火曜日

薄井による「科学的看護論」は、看護学の存在を科学的に立証した。広い意味でも狭い意味でも他者、とくに病者に寄り添うことは科学的な裏づけに基づいた方法論によって支えられているとの慧眼は、看護学を科学の分野での学問体系にまで押し上げた。看護覚え書の著者であるナイチンゲールが表出した看護に対する思いは、ゆうに一世紀半を経過しているが、ひとつの身体が四肢を持ち、二つの目と耳を持ち、一つの口を持つ、等と言った人間の本質がはるか昔の人類の創世期から変わることが無かったように、看護も変わることなき普遍的な存在であることを感じさせている。医療の中での位置づけとして、薄井によって医学と双璧をなす学問体系として仕上げられた看護学は、ある意味では医学以上に科学的すなわち理論的な体系をなしていると言える。

看護学が医学とは異なった学問体系であるならば、当然のことながらからだの見方も医学とは違った見方が出来上がってくる。薄井はこの面でも早くからこれに気がついており、科学的看護論の実践を進める上でのからだの見方を二冊の本に纏めている。

医療の実践の中では、医師は医学に基づいて患者の病気に注目して治療をする一方、看護師は看護学に基づいて病気を持った患者のすべてに注目して看護をする、という分担ができあがってくる。看護のためのからだの見方とはどのようなものであろうか。
看護の本質とは“生命力の消耗を最小にするよう生活過程をととのえることである”と定義している。このことを実践するには病気以外のからだの部分も正しく把握していなければならないことを意味している。すなわち看護を実践するためには病気の部分と他の部分の関係をきちんと理解していなければならないことも意味している。看護実践の際の“もてる力を引き出す”との言葉は、まさしく病気の部分の残された力とともに他の部分の力を活用するとの意味合いをも含んでいる。すなわち“看護における病気の見方”とは、病気の成り立ちの本質を知ることと共に病気の部分と他の部分の関連を理解することであるといえる。

病気の成り立ちの本質とはどのようなことであろうか。医学におけるたくさんの病気や病名は理論的に四種類の異常に抽象化できるということで、ひとつは運動の異常、二つ目は腫脹、三つ目は欠損、四つ目は増殖、である。一方、からだは多くの管腔構造から成り立っており、上記の4種類の異常は管腔の内面に発生する現象と捉えることができる。すなわち病気とは管腔内に発生する異常現象で、この異常を四種類に抽象化することによって、病名にとらわれることなく患者の病態を推察ことができることになる。

次に、病気の部分と他の部分との関連を理解するとはどのようなことであろうか。症状とは病気の際に患者の全身に出現する異常と言うことができるが、上記四種類の異常から直接症状を説明することは難しい。四種類の異常が臓器レベルの異常として記述されることは治療を目的とした医学の捉え方であるが、臓器の異常が分かってもなお全身にあらわれた症状を正しく説明することは難しい。臓器の異常は隣の臓器に異常を及ぼし、更に隣の臓器に異常を及ぼすと考えられるが、そのような異常の連関はそれらを包含する器官の異常として考えることができ、器官レベルの異常が直接に全身の症状と結びついていると考えられる。すなわち器官レベルでの機能の状態の把握が全身の病態の把握に直接連なっているといえる。器官についてはからだの中を六つの器官に抽象化すると考えやすい。①は感覚器と神経系を含めた統合器官、②は循環器官、③は呼吸器官、④は消化器官、⑤は泌尿器官、⑥は生殖器官、の六つである。統合器官は循環器官の血液のよって栄養され、血液は呼吸器官の酸素と消化器官の栄養素によって維持され、代謝された老廃物は腎臓から排出され、次世代は生殖器官にて育まれる、等といった関係にある。器官の捉え方としては単なる臓器の羅列ではなく、器官の中での各臓器の役割や働きを知っておくことが“持てる力”の把握に役立つと考えられる。消化器官であれば、入り口出口である口腔や肛門は随意の部分であって他は不随意であること、役割から考えて血液に栄養素を供給する小腸が器官の本質部分であること、その前後の胃は食物を溜めながら少しずつ小腸に送り出すという相反する働きを担っていること、大腸は残渣を溜めて水分を吸収して便を作るが、胃も含めて物を溜めるところには異常が発生しやすいこと、等が容易に分かる。また、小腸のような器官の本質部分が欠損すると生命維持には多大な困難を来す。

他の器官についても同じように役割と働きを理解した上で病気を持った人の病態を考えると、たとえば胃潰瘍と診断されて、腹痛があって嘔気を伴い、食欲が落ちている患者さんの病態はどのように考えることが出来るであろうか。胃潰瘍は四種類の病気の中では管腔壁の欠損と考えられるので、欠損した部分では胃液の浸透による腹痛が生ずるし、出血による血液は上部化管内の異物として感受されるために嘔気を生ずる。医師の治療としては胃液の中の刺激物質である酸分泌を抑制する抗潰瘍の投与と吐き気止めの処方がなされるが、それによって症状が治まったとしても潰瘍が直ちに治ったわけではないところに看護の出番がある。症状がなくなることは危険信号を遮断することであり、出血などの観察をさらに丁寧に行わなければならないことになる。食事が許されても食欲が無い場合には、胃潰瘍の存在が直接に消化管の機能を落としているのであれば食形態の変更等も考える必要があるし、病気に対する心配や不安が交感神経の機能亢進状態をもたらして消化管機能の抑制状態を招いているのであればこれに対応しなければならない。内視鏡検査の結果で潰瘍が瘢痕化して退院したとしても、貧血などの他の器官の機能低下がまだ回復していない状況がみられたり、潰瘍の成因が日常生活に起因するとすれば、これも看護の関わりを必要とする。

このように、看護に役立つ病気の見方は、看護学に基づいた看護の実践に役立つものでなければならないが、それには看護の実践に必要なからだの理解が、その病態を反映するものでなければならない。

もう少し詳しく知りたい方のために:
科学的看護論 第3版 薄井坦子著 日本看護協会出版会
ナースが視る人体 薄井坦子著 講談社
ナースが視る病気 薄井坦子著 講談社
器官レベルでの病態の把握 関山伸男 季刊「綜合看護」第41巻3号~第43巻3号

投稿者:消化器内科部長 関山 伸男